Movie Review
partlll
ジェイコブの梯子
映画 『パウダー』
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June 31/ 2001
◇『ジェイコブス・ラダー』のこの言葉、他の映画の中で聞いた事があるな、と思っていたのですが、思い出しました。それで、すごく嬉しくも、悲しくも思えたので書き留めておきます。
ショーン・パトリック・フラナリー主演の『パウダー』のなかで「ジェイコブス・ラダー」という言葉が出てくる。
パウダーと呼ばれる少年は、母の胎内にいる時に、雷の直撃を受け、先天的に色素と毛髪がない。残された父親は彼を受け入れられず、祖父によって地下室で育てられたが、ある日祖父が亡くなり、保安官に発見される。パウダーは初めて、祖父以外の人間と接触することになる。
パウダーは驚くべき能力の持ち主で、電力を引き寄せてしまう体質も持っていた。 寄宿学校に入ったその日に、彼の風貌ゆえに、彼をからかう生徒に対して、見せる能力もすごい。食堂でのスプーン、すこし擦っただけで、強力な磁石となり、すべてのスプーンを引き寄せてしまう。しかし、これもほんの一部の能力。彼自身が媒体となり、死んでいく動物の気持を他人に伝えたり、植物状態の婦人の心の言葉を保安官に伝えたりしている事から、リーディングなどの超能力も持ち合わせているようだ。彼が住んでいた地下室の本棚には、本が溢れている。少年ながら、驚くほどの知性の持ち主であった。それと同時に、純真で無垢な精神を持ち合わせてもいる、まさに天使のような存在である。
ジェイコブス・ラダーというのは、ジェフ・ゴールドブラムが演じる科学の教師が製作(違うかもしれない)した電気に関するかなり大きな実験道具の名前だった。縦長のガラスの中にコイルのようなものが垂直に収められているものだったと思うが、さほど重要なシーンと思わなかったのでよく覚えていない。何の実験に必要だったかも忘れてしまった…。無限に発電する装置だったと思う。授業の中で、ジェイコブス・ラダーが作動した時、それに充満した電気は、パウダーに向かって無限に流れ出し、パウダーの体を持ち上げた。慌てた教師が装置を壊して、電気が絶たれるまで続いた。その後、パウダーは教室の床に叩き付けられた。
ラストシーンにこれが関係しているのかもしれないと思うのは考えすぎだろうか。ネタバレで申し訳ないが、ラスト、パウダーは広い草原の下、落ちて来る雷に向かって両手を広げ、天の門にむかっていくかのように走っていく。強い稲光がパウダーによって引き寄せられ、集まって来る。ヤコブの梯子のようだ。そしてパウダーは、跡形もなく消える…。
パウダーの発信するメッセージは、誰にでも向けられているメッセージ。彼を毛嫌いし、憎むべき対象としてしか見る事の出来ない、生徒、大人に対してパウダーは抵抗せず、もっと違う所を見据えているようだった。
残念ながら、メッセージを受け取ったのは、彼を発見した保安官と、教師ランス、学者?の女性、そしてたぶんパウダーが恋した女の子…。
パウダーは、結局、梯子(ジェイコブス・ラダー)を上って、自分のいるべき所に帰っていったのではないだろうか。
地上の人間は、天使の手に負えなかったのなら、悲しいと思う。