Movie Review ll
秋の童話 オータム・イン・マイ・ハート
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ユン・ジュンソの愛
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ユン・ジュンソの愛
04 /05/ 2003
◇ブラウン管のスタイリストと呼ばれるユン・ソクホ監督の映像は、何もかもが出演者のそばで
インスピレーションを与える大事な要素となっている。
それは、美しい光の使い方、何気ないカップ一つ、窓辺で揺れるカーテン、
木の葉の一枚一枚に至るまで、
素朴でありながら、調和のとれた色彩で、本当に童話の挿絵のよう。
それぞれの愛が絡み合う、忘れられない秋を静かに物語っている。
その、それぞれの愛について。
ユン・ジュンソの愛
まだ歩きはじめたばかりの幼いジュンソ、生まれたばかりのシネとウンソが何も知らずに眠る新生児室に入った時からこの物語は始まっていたのです。まさに運命のなせる業だったのか。交通事故で明らかになる赤ちゃん取り違え事件。
14年後に発覚したこの事件で少年ジュンソは重すぎる痛手を負うのです。仲が良すぎるくらい良い兄と妹、少しだけ年上だったジュンソはウンソへの無邪気な愛を感じ始めていていたからです。それは誰にもいえない気持ちだったはず。妹と信じていたウンソと血のつながりがないと知った時も、変わらずウンソを大事な妹であると思いたい、しかし結局は母の反対を押し切る形になった父の行動が招いた結果で、堂々と愛してもいい対象となった。でもそのことを喜べるわけでもなく。この辺りは想像がつかない複雑さ。
兄妹の間に芽生える愛情は男女の愛情とは別もので、ジュンソとウンソの愛は、突き詰めて考えると有り得ないと思う人が殆どのような気がします。なので赤い糸で結ばれた人が、不思議な縁で兄妹となってしまっただけと考えるようにしました。でもアメリカから10年後に帰国した時、ジュンソは婚約者のユミと一緒でした。その上、自分の親友であるテソクが、ウンソを本気で愛していることもあって、とてもウンソとの愛を育てられるような状況でもありません。ユミとの婚約を決めたのも、ユミとウンソが同じ言葉を口にしたからでした。だからちょっと優柔不断とも取れるような行動で、ハラハラしてしまうんですが、このお兄ちゃんは耐えに耐えました。妹としてこれからも側にいて欲しい、そう決心もするのですが。
ジュンソとして一番印象に残るのは、耐え続け辛さに目が潤んでも、思いを秘めているうちは、消して涙として流れない様子です。よく見るとまだ幼い感じもする端正な顔立ちの中で、キラキラと輝く漆黒の瞳が、とてつもなく美しいのです。忍耐強く、感情を表に出さず、知的で大人びた男性として、ウンソを愛する気持ちは、あくまでも清らか。でも二人きりでいる時の会話は甘すぎるほど、あまいのです。
長ったらしい台詞ではありません。ハッとするような台詞でもありません。ぽつりぽつりと探り合うようで、懐かしむようで。
物心ついてからずっと一緒に育ってきた心安さも加わっています。しかしBGMは「禁じられた遊び」のテーマ曲。この旋律は、何度もドラマの中で流れて、やはり血が繋がらないとはいえ、兄妹として育ってきた二人は、男女としては簡単に幸せにはなれないんだ、というなんとも言えない気持ちを見るものに起こさせるのです。
美術大の教授になったジュンソが暮らすのは、先輩のアトリエ。廃校になった小学校。
そこでスペースを借りて暮らしていたのですが、このドラマを見た方、誰もがきっと、好きだろうと思われるくらい美しいシーンがあります。
それは日差しが燦々と差し込む窓辺で、二人が背中あわせになって窓ガラスを磨いている、という何気ない生活の一場面なんですが、窓辺で揺れるレモン色のカーテンと日の光が溶け合うように二人の背景にあって、思わず見とれてしまうシーンです。
「お兄ちゃん、私といて幸せ?」
「ああ。」
それから小指と小指がツンと触れ合う、それが精一杯。
ここでは結末までは語れませんが、この二人の行きつ戻りつするストーリーにドキドキしつつ、ジュンソを愛するユミ、ウンソを愛するテソクがそれぞれに、これもまた強く揺るぎない愛情をぶつけ、それでもドロドロにはならないのです。それはなぜなんでしょうね。ヘンな駆け引きやプライドなど吹き飛ばしてしまう、正真正銘の純愛が描かれているからでしょう。見たことあるようで、実は見たことなかったそんな純愛。
次はハン・テソクの愛について、です。
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