Seeking after truth ll
ホタル
I
知覧特別攻撃隊
特攻記念館
I
知覧特別攻撃隊
特攻記念館
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09 /02/ 2002
◇第二次世界大戦、鹿児島県川辺郡知覧町。
知覧飛行場、特攻基地には、17歳から23歳までの若者が、特別攻撃隊、特攻隊として、出撃するまでの残りのひとときの時間を、地元民とともに過ごした。隊員たちの出撃命令が下ると、軍指定食堂「富屋食堂」で家族との最後の対面を許された。 映画「ホタル」はその富屋食堂で隊員たちから「お母さん」と呼ばれ、慕われた鳥浜トメの語る物語を軸にして、昭和を生きた特攻の生き残りの隊員、山岡と妻のともこが、当時、朝鮮人でありながら特攻隊として出撃し、戦死した「金山曹長」の遺品と遺言をトメから託され、それを届けること、そして長年連れ添ってきた山岡と妻ともこの愛を綴る物語。
「明日、私は沖縄へ行き、敵艦をやっつけてくるから、帰ってきたときには、
宮川、帰ってきたかと喜んでください。」
「どんなにして帰ってくるの?」
「ホタルになって帰ってくる」
この夏、というか毎年主人の実家がある鹿児島へ帰省することになっている。
以前、何度となく見た映画「ホタル」の舞台である知覧へ行ってみたいと思い立った。
でもその時は、映画のロケ地を訪ねる、という、あまり真剣さの無い計画だった。
映画に出てくるホタルは確かに感動的だったし、精悍な金山曹長、その潔さと切なさは心に残った。
私は写真の富屋食堂を訪ねるだけでいいと思っていたがそれは間違いだった。
知覧はお茶の産地でもあり、青々とした茶畑が広がる風景はとても美しく、その上にある大きく澄んだ空とのコントラストもさらに美しい。後は民家だけが続く風景は、特攻隊員たちが見たものと同じかもしれないと思うと心が騒いだ。山道を走り抜けると、広く整備された道路に出た。その両脇には延々と続く灯篭。
「ホタル」山岡夫婦が藤枝真実をタクシーに乗せて送り出す、あのシーンの灯篭だった。
この灯篭は命を懸けた空中戦士たちと同じ数にするのだそうで、今でも建てられ続けているそうだ。
私は早く富屋食堂へ行きたいと思っていたが、その前に特攻記念館へ立ち寄った。記念館の中に入ると、映画にあったように、両側の壁面には隊員たちの写真が一面に貼られていた。そしてガラスケースに収められている遺品や遺言の数々。
そこにはたくさんの人が見入っていて、順番待ちをしなければならなかった。
若い人、年配の人、みんなが無言、あるいはケースの上に涙を落とし、鼻をすすったりして見ていた。
私は順番を待っていられないで、手にとって見れるコピーが置いてあるコーナーに先に行った。そして私はそこから動けなくなった。動きたくなくなってしまった。ふと、目にとまった日記に釘づけになった。佐藤新平曹長が残した「留魂録」という日記の全文だった。
それは特攻に志願し、三度目で希望が叶い、知覧入りした日から始まっている。
それから出撃命令が下るまで、日々の日記や家族への遺言が綴られていた。当時、まだ23歳の若者だ。
私は読みながら涙を抑える事が出来なかったことがとても恥ずかしかった。でも胸が潰れる思いだった。
それを読み終えて、何度も読み返していると、どうしても佐藤曹長の写真が見たくてなって探し回った。
随所に設置されているパソコンで簡単に検索できる事を知るまで散々探し回った。見つけた写真で見る佐藤曹長は、機上にて、並びのよい綺麗な歯を見せた印象的な笑顔の人だった。私は本当に、ただ単純に「どうして、これほどの人が、特攻として死ななければいけなかったのか」と思った。
どうして自らの意思を持ち、「必中、必死」と潔く立ち向かえるのか。
両親への愛情、幼い兄弟への優しい言葉、その文面から愛情深く聡明な人柄が伝わってくるほどに、私にはその思いが強くなっていった。
それから、再び遺言が収められたガラスケースのコーナーへ行って、隊員たちの遺言を一つ一つ、見ていった。それでなおさら、思わずにはいられなかった。「こんなに若い人たちが、どうして笑顔で…」
みんな、若い。あまりにも若い。そしてみんなとても可愛らしい。もう死んでしまった人たちだからそう思うのか…。でもみんな本当に可愛いかった。
哲学的な心境に至って書かれたものや、若者らしい言葉もあった。しかしどれもそれを書くまでに至る心情を察すると、何て強靭な意志をもっていたのだ思わずにいられない。、勝利を願い、「鬼畜米英を必ずや撃沈」し、そして「大日本帝国」の未来を信じ、それを家族のため、愛する人のために、自ら、爆弾とともに激突する道を選び、笑顔で機上の人となったその強靭な意志。
映画の中にも使用されていた、子犬を抱いた隊員たちの写真を覚えている人もいるだろうか。みんなまだあどけなく、幼さが残る顔立ちで、これは何か、身に付ける衣装が間違っている、あるいは、戦争映画の出演者の撮影の合間のスナップなのかと思うほど、その少年たちの表情は優しく可愛らしい。写真に収められた時の状況と背景が不自然だと思えてくる。
隊員たちの可愛らしさ、そして潔い遺言と、内に秘めた家族や愛する女性への想い。
そうまでして守ろうとしたこの日本という国を、今の人はそして私は、その何分の一かでも大事に思っているのだろうか。この少年たちをこんな悲しい決意に立たせたものは…。
こんな戦争はもうどこでも起こって欲しくないと思わずにはいられなかった。反戦意識と、愛国心についての両方の意識を覚えさせる。
半日ほどその記念館にいた。化粧室に行き、もう一度順路の入り口へ向かう時、入り口に大きな壁画があることに気がついた。
最初は中にある隊員たちの写真が一番に目に飛び込んできたので、きちんと見ていなかった。
その壁画は、炎上する機体から、全身が真っ赤に燃え上がった戦士を天女たちが抱きかかえて天へ引き上げようとしているものだった。
続く。
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